シリコンクロスとは

 APCO社がパラグライダーの上面・下面に採用する生地は、シリコンコーティングを施したリップストップナイロンクロスです。APCO社は1990年頃からシリコンクロスを使い続けていて、この生地に関する多くの蓄積があります。シリコンクロスの優秀さに気がついた他のメーカーが2000年頃から使い始めています。弊社はAPCO社の製品を扱ってきたことにより、シリコンクロスの特性を熟知しています。
 パラグライダーに採用されているナイロンクロスは、エア漏れを防止するコーティングとして、通常はポリウレタンを使用しています。APCO社が採用するものは、ナイロンクロスの両面にポリウレタンコーティングを施し、さらにその上にシリコンゴムのコーティングを施したものです。シリコンゴムのコーティングは空気漏れを防ぐとともに、下層のナイロン繊維およびポリウレタンコーティングを保護する機能を受け持ちます。一般的な両面ポリウレタンコーティングの生地は、JDC製ポロジメータで空気透過を計測した場合、新品で250秒から300秒程度です。APCO社が採用するクロスは、同じ計測をした場合800秒から1000秒以上という、圧倒的に高い成績を記録します。我々は空気透過試験の結果が20秒以下で要注意、10秒以下の場合は使用不能と判断しています。ポリウレタンコーティングのみのクロスでは、20秒以下の試験結果を頻繁に見受けます。しかしAPCO社製品の場合は、我々の経験においては、よほど特殊な環境で使われたものを除いて、20秒以下の結果を見ることはありません。「特殊な環境」とは、たとえば海岸地方でスクールの講習用として使用し、強い紫外線・砂や岩による摩擦・海水に浸かる、等の影響を日常的に受けたものです。
 このようにAPCO社が採用するシリコンコーティングクロスは紫外線による劣化に対して非常に高い耐久性があります。点検時には空気透過性試験を行いますが、個人の方が使われているグライダーでは、この試験で使用不能と判断した経験はありません。紫外線によるもの以外にも劣化する原因はありますので、定期的な点検の必要はありますが、APCO社の製品においては空気漏れを心配する必要はほとんどないでしょう。

シリコンコーティングクロスの修理

 シリコンコーティングクロスは表面のシリコン樹脂コーティングにより粘着材が効かず、単にリペアクロスを貼りつけるだけの修理はできません。しかし適切な接着剤を使用するとリペアクロスを強力に貼りつけることができます。使用する接着剤はシリコン樹脂を主成分とするものを使用します。建築用に使用するシリコンコーキング材と呼ばれる製品が使用できます。また、セメダイン(株)製の「SUPER X」という接着剤が使用できます。シリコンコーキング材は硬化時間が12時間程度必要なのに対し、SUPER Xは3時間程度で実用的な強度が出るので、作業がはかどります。

 次に順を追って修理の方法を説明します。リペアクロスによる修理は、
(1)破損部分が縫い目に達していないこと
(2)破れの大きさが概ね5cm角のかぎ裂きを最大として、これ以下の規模であること
この条件に該当するものがリペアクロスによる修理が可能です。この条件に当てはまらない場合は、縫製による修理が必要です。


 破損個所を確認したら、リペアクロスの貼り方を決めます。この場合は単純なかぎ裂きなので、裏面(内側)から貼りつけることにします。複雑な形に破れている場合や、生地に欠損があるときは両面から張ります。


 キャノピーを裏返して、リペアクロスを貼りつけるときにしわが入らないように板きれなどを敷きます。




 接着面をきれいにします。アルコールで拭くと良いですが、油分の汚れがないようならば、水拭きでも構いません。


 接着剤を使用します。上の写真で「バスコーク」はコーキング材と呼ばれているものです。「SUPER X」は短時間で固まるので作業がはかどります。


 接着剤をできるだけ薄く塗ります。厚く塗っても接着力は変わりません。かえって修理箇所が目立ってしまいます。


 適当な大きさに切ったリペアクロスを貼りつけます。気泡が入らないように端から徐々に貼りつけていきます。


 貼りつけたら、リペアクロスが動かないように静かに放置します。コーキング材を使用した場合は初期の接着力が弱いので、しばらくするとリペアクロスが浮き上がることがあります。時々修理箇所を点検してください。
 この例では糊付きのリペアクロスを使っているので、接着剤はキャノピー側にだけつけています。糊のついていない通常の生地を使う場合は、両方に接着剤を塗ってください。
 コーキング材を使った場合は12時間程度放置してください。SUPER Xの場合は3時間程度でべたつかなくなります。


 完成です


<付録> シリコンクロスにはゼッケンを貼り付けできない?
   答え:貼り付けできます
シリコンクロスは、確かに粘着材の効果が薄く、修理の際には接着剤の併用が必要です。しかしゼッケンを貼り付ける程度の目的であれば、一般に市販されているガムテープ・リペアクロスまたはマーククロスが、実用上問題なく使用することができます。一般的なPUコーティングの生地では、貼り付けた後、はがせなくなる問題がありますが、シリコンクロスでははがしやすいというメリットもあります。

シリアル番号やJHSCプラカード等、小さいものを着ける場合は、リブのエアインテーク付近に貼り付けるという手もあります。リブにはシリコンクロスを使用しておらず、また多くのAPCOパラグライダーはリブの前縁にトリーラムやマイラーを使っているので、この部分には良く着きます。但しはがす際には苦労します。

とはいっても、実際にゼッケン貼り付けに苦労している方がいらっしゃるので、作業のポイントをお教えします。

(1)表面を清掃する。
 生地の表面が汚れていると粘着材の効果が薄くなります。貼り付ける前に表面を水かアルコールで清掃し、乾かしておきます。また、完全な新品の場合、生地表面にわずかな油分があるので、やはり清掃が必要です。

(2)気泡が入らないようにする。
 テープ等と生地の間に気泡が入っていると、そこからはがれ易くなるので、できるだけ気泡が入らないように努力する。

(3)一旦貼り付けたら、はがさない。
 これが最も大事なポイントです。シリコンクロスには貼り付けができないという、間違った認識が蔓延しているためか、貼り付けた後で「ちゃんと着いているかな〜〜」などと、せっかく貼り付けたテープの端をはがしてみたりする方がいます(結構多い!)。これがいけない!!。粘着剤は、付けたりはがしたりを繰り返すと粘着力がどんどん落ちてしまいます。一旦貼り付けたら、貼り付いていることを信じてはがさないこと!

(4)貼り付けた後、きれいに畳んでしばらく放置する。
 粘着材は一般に、時間の経過とともに粘着力が増します。貼り付けた後は、できればすぐに飛ばないで、1日ぐらい放置してください。

(5)用が済んだらはがす。
 シリコンクロスといえども、長期間貼り付けたままにしておくと、はがすことが難しくなります。経験では、正しく貼り付けて6ヶ月くらい経つと、普通の生地に貼り付けたのと同じくらいになります。必要のなくなったゼッケン等は、早めにはがした方がよいでしょう。もし糊が生地に残ったら、アルコールか、または弊社製品の「リガード」(シリコンゴム主成分のコーティング剤、溶剤が含まれているので糊や汚れ落としにも使える)で拭き取ります。

大会での好成績をお祈りします!!

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